本作『SEATED GIRL IN THE SHADOW』は、ウィーン分離派の創設者として知られるオーストリアの画家であり、象徴主義とアール・ヌーヴォーの流れをくむ画風で世界中を魅了するグスタフ・クリムトのドローイング作品である。クリムトの作品は、官能的なポーズや表情など肉体的なテーマに加え、金色を多用した煌びやかで幻想的な装飾性による独自の様式美が特徴である。中心となるモチーフは女性であり、妖艶な美しさをまとい、死を連想させる作品も多い。クリムトは芸術生涯の中で、伝統的な建築装飾画家から象徴主義芸術家への転換を経験している。1880年代後半には劇場装飾を中心とした仕事で装飾家として、ウィーン美術界における名声を確立していたクリムトは、1891年にクンストラーハウス(ウィーン美術家組合)に加入しているが、1897年に保守的なクンストラーハウス(美術家組合)を嫌った芸術家達によってウィーン分離派が結成されている。分離派は古典的、伝統的な美術からの分離を標榜する若手芸術家のグループであり、クリムトが初代会長を務めている。横向きに椅子に座る女性を描いた『SEATED GIRL IN THE SHADOW』は1890年代の中頃に描かれたと推測されている。ウィーン分派結成の年代と作品が制作された年代は近く、象徴主義に移行する過渡期に描かれている。この作品は彼の作品の素晴らしい例である。鉛筆と紙のシンプルな素材を通じて、女性像の独特な魅力を捉え、神秘的で詩的な雰囲気を呈している。この作品はクリムトの人体に対する鋭い観察を示しており、感情と内在世界に対する深い理解も体現している。現在、彼の絵画作品はベルベデーレ・オーストリア絵画館、MoMA(ニューヨーク近代美術館)、オルセー美術館、Tate(テート・ギャラリー)、ミノイエ・ピナコテーク などに収蔵されている。1990年代以来、オークションで最高価格を記録してきた芸術家の一人である。クリムトの作品が日本で出品される機会は非常に珍しく下見会でも注目してほしい。