<アール・デコの彫刻>
アール・ヌーヴォーに続き、1920年代にフランスで始まり、欧米を中心に広まった装飾美術様式であるアール・デコ。
曲線が目立つ有機的で優美なデザインが特徴のアール・ヌーヴォーに対し、機械生産化の時代の到来を背景として登場したアール・デコは、モチーフを簡素化・デフォルメし、幾何学文様や直線を多用しているのが特徴である。
そんなアール・デコ様式を象徴するものの一つに、「クリセラファンティン(Chryselephantine)」と呼ばれる彫刻がある。クリセラファンティンは美術史の中で二度登場する。もとは古代ギリシャ期において制作された彫刻のうち、金と象牙を使用したものを指す。そして次に台頭したのはアール・デコ期である。ただし、古代ギリシャ期よりも幅が広がり、ブロンズや銀、漆、べっ甲などの異素材を組み合わせた彫刻全体を指すこととなった。
アール・デコ期におけるクリセラファンティンの代表的なモチーフといえば、理想的な肉体を持つ女性が大胆かつ優雅に舞う姿である。そして身にまとう衣装の装飾性の高さ。全てにおいて壮麗である。これらの像は所有者の文化的地位と富を示した。クリセラファンティンの多くは、その価値の高さから、貴金属を回収するために解体または溶かされたという。
今回のオークションでは、クリセラファンティンの代表的な作家である、フェルディナンド・プライスとデメートル・シパリュスの作品が登場する。
フェルディナンド・プライスはドイツ生まれの彫刻家。20世紀の自然主義的な女性を、スポーツや演劇をする姿で表現した。古典的な理想と新たな時代への開放的な美の共鳴が見事である。
デメートル・シパリュスはルーマニア生まれの彫刻家。彼の作品の最大の特徴は何といっても「装飾美」である。細長く理想的にデフォルメされた象牙の肉体を、緻密に造形されたブロンズの衣装が彩る。